2020/06/15 08:00

主役はスタートアップ。
「Tokyo Startup BEAM」が日本のものづくりを変える

スタートアップを導火線に「ものづくりの街 TOKYO」が始動する。シリコンバレーとも深センとも異なる「東京ならではの勝ち方」とは?

「Tokyo Startup BEAMプロジェクト」を仕掛ける東京都の堀江 暁

「Tokyo Startup BEAMプロジェクト」を仕掛ける東京都の堀江 暁

「シリコンバレーの資金調達額は東京と一桁違う。中国・深センはアジアのシリコンバレーだ。なんて言われていますが、東京のものづくりのポテンシャルはけっして負けていません」

こう胸を張るのは「東京都ものづくりベンチャー育成事業 Tokyo Startup BEAMプロジェクト」を仕掛ける東京都 産業労働局 商工部 創業支援課 技術連携担当課長の堀江 暁だ。

日本のスタートアップの資金調達額は、米中と比べるとまだ規模は小さいが、2013年の840億から6年で5倍の4,254億(出所:INITIAL)と躍進を遂げている。人材の面でも、東大院卒生の就職希望先として、名だたる大企業を押さえてスタートアップが上位になったことからもわかるように、スピード感と柔軟性を持ち合わせたスタートアップは「優秀な人材が目指す現実的な就職先」になってきている。

そんなスタートアップの中においても、AIやIoT、5Gといった技術革新の流れに沿って、ソフトウェア偏重の傾向が見られるが、Tokyo Startup BEAMプロジェクトはものづくり(=ハードウェア)に力を入れるという。なぜなら、新たな技術を活かし都市の課題解決に取り組むためには、ソフトウェアとハードウェアの両面からアプローチする必要がある、という都の確固とした考えがあるからだ。そして何より、東京はものづくりをする中小企業の集積地である(「BEAM」は、Build up、Ecosystem、Accelerator、Monozukuriの頭文字をとっている)。

「近年、例えば、航空機の機体やエンジンとなる精密部品を供給する中小製造業が元気です。都内には、技術力の高さで成長産業を支える中小企業がたくさんある。新しいアイデアやテーマに挑戦し、経済・社会の起爆剤となるようなスタートアップを支援することを通じて、より一層、都内の製造業を盛り上げていきたい、という思いがあります」と堀江は言う。

Tokyo Startup BEAMプロジェクトでは、ハードウェアへの優れたアイデアや技術を持つ起業10年以内の中小企業や個人に対し、都が支援機関と連携し、設計・開発から試作、検査、製品化、市場投入まで、事業化への道のりをきめ細やかにサポートする。また、段階に応じて一定の資金援助も行う。工業製品の中核部品から、ソフトウェアとハードウェアが一体となったロボットなどの開発まで、あらゆるものづくりのアイデアの応募を期待している。

「BEAM」(Build up、Ecosystem、Accelerator、Monozukuri)という命名には、「ビームの物理的特性を具現化して欲しい」という願いも込められている。つまり、このコンセプトによって目指すのは、スタートアップとそれを支援する機関や中小企業が、「粒子の集団のように一直線となって新たな事業を実現する」こと。ひいてはスタートアップ、投資家、取引企業などの間に生じた好循環から、さらなるスタートアップが次々と立ち上がり成長できるエコシステムを形成することにある。

このプロセスで最も重視されるのは、スピード感だ。人・モノ・カネのリソースが少ないスタートアップにとって、短期間で試作品を生み出し、資金調達につなげられるかどうかは死活問題となるからだ。

その対策のひとつとして、まず試作品づくりのスピードアップを図る。Tokyo Startup BEAMプロジェクトでは、採択先事業者に最新型の3Dプリンターの利用機会も提供する。「従来だと、試作品は時間とお金のかかる金型でつくられていましたが、いまは3Dプリンターを利用して、より速くイメージを形にできる。形になると人から評価を得られるので、市場なり、取引先なりと早い段階でコミュニケーションをとることができます」(堀江)。

また、3Dプリンターのデータを作成するための3D CADを使えない採択先事業者には、オペレータを手配するという。CAD操作を覚える時間を省くのも、製品開発のスピードアップ支援の一環だ。さらに出来上がった3D CADの設計図は、そのまま図面として取引することも検討できる。無論CADデータであるから、国内のみならず、海外市場にも目を向けられる。「モノになるのが早い、商売になるのが早い、というのを目指して、今回のTokyo Startup BEAMプロジェクトを企画しています」と堀江。

ものづくりのスピードは、さまざまな支援機関との連携でも加速される。技術的な援助については、東京都立産業技術研究センターの協力がすでに決まっている。予算や人員において公設研究機関で最大の規模を誇る同センターは、産業技術におけるあらゆる分野のエキスパートが揃う。自身も研究員として長年勤務した堀江は、「産技研は、どんな技術ジャンルにも対応できるため、まずは気軽にご相談いただきたい。Tokyo Startup BEAMプロジェクトでも、産技研の参画は大きな意味を持つのではないかと思います」と話す。

一方、技術者集団のスタートアップでは苦手とするところが多い「経営面」における支援にも万全を期す。事業計画や販路の相談、資金調達など事業化に向けた様々な局面で、Tokyo Startup BEAMプロジェクトの事業コーディネーターが、専門家やベンチャーキャピタル(VC)などへの橋渡しの役割を担っていく。

技術面と経営面の両輪でサポートし、スピーディな市場投入の実現に向けて伴走する構えだ。

「Tokyo Startup BEAM」のコンセプトを語る堀江 暁

「Tokyo Startup BEAM」のコンセプトを語る堀江 暁

東京のポテンシャルは圧倒的

国内の製造業は、中国やアジア新興国の台頭で厳しい競争にさらされている。こうした現状に、東京のものづくりベンチャーはどう立ち向うべきか。スピード感に加えて、Tokyo Startup BEAMプロジェクトが掲げるのは「高品質、高付加価値」というキーワードだ。

「品質のよさというのは、日本人のものづくりにおいて譲れない点です。特に職人肌が多い中小企業やスタートアップの方は、そもそも使い捨てとなるようなものをつくろうとしません」と堀江は言う。

長く使えるという耐久性のみならず、使いやすさやエコロジーへの配慮、さらに安全性やアフターサービスといった社会的なニーズを幅広く的確に捉えることで、東京でのものづくりには価値が宿るとの見解だ。「価格を抑えることにおいては、確かに中国のほうが得意かもしれません。けれどもカスタマーに納得していただける製品は、東京でこそつくれるのではないかと思っています」。

ではスタートアップの資本金が、東京とひと桁違うとされるシリコンバレーと比べるとどうだろうか。

「アメリカは資本力が大きく、日本の企業も米国VCから資金を得ているケースがある。ですが最近では、国内大企業によるコーポレートベンチャーキャピタルが増えつつあります。そうなると、大企業の本社機能が集積する東京は、地理的に有利になります」(堀江)

そして東京の最大の強みは、ソフトウェアにしろハードウェアにしろ、さまざまな業種の企業が数多く立地していることだ。また、大学や研究機関も多い。情報などのリソースにおいて、狭い地域に密接してこれほど集中している都市は、世界でも稀と見られる。東京がものづくりのスタートアップ・エコシステムの構築に適していると、事業を立ち上げた東京都が目するのは、こうした地の利のよさがあるからだ。

「自走するエコシステム」をつくる

Tokyo Startup BEAMプロジェクトを運営する都の産業労働局商工部には、昭和の時代から引き継がれてきた基本理念がある。それは、「東京、さらに日本の産業を下支えしているのは、98%以上を占める中小企業だ」というものだ。戦前・戦後からの大田や板橋のものづくりに代表されるような、素晴らしい技術をもった中小企業のおかげで今日の日本があり、それは今後も続いていく━━こうした考え方に則って、商工部では中小企業、特に製造業を中心とした支援策を行ってきた。

従来の中小企業の経営基盤を支えるためのさまざまな事業がある一方で、イノベーションによって新しい産業を生み出し、中小企業の最先端を走るような企業への支援も商工部では展開している。Tokyo Startup BEAMプロジェクトは、まさにこの後者の位置付けだが、単なる個社支援にとどまるものではない。

この事業が通常よりユニークなのは、東京ならではのスピード感をもったものづくりのモデルと、それを可能にするエコシステムの構築を目指していることだ。つまり今回の事例をモデルケースとして、スタートアップへの具体的な支援策やそのタイミングを見極めていくこと。そしてその先には、スタートアップ・エコシステムをいかに自律的に回る状態へと導くか、ということを探り当てる最終目的があるのだ。

成功したスタートアップは、成長への道筋や支援のノウハウなどを後の世代に伝えていくことがままある。Tokyo Startup BEAMプロジェクトから生まれたスタートアップもまた、その受け渡しの仕組みを形づくり、エコシステムをつないでいく役割を果たすだろう。堀江によれば「製品のアイデア、使用用途や価値のビジョン、そして熱い思い」があれば、東京で新たなものづくりをするための扉は、いまここに開かれている。

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